研究の歴史
3. 研究開始
1. 何からはじめよう?
矢吹さんが、次々と化石を発見・クリーニングしてくるうちに、その化石がとてもすばらしいものだと分かってきました。これには、足寄町の教育委員会も本腰を入れて取り組まなくてたちうちできません。そこで、1984年3月から公民館に化石作業所を開設し、江口さんが担当することになりました。2.手探りのスタート
江口さんは、2回目の発掘のときの社会教育課長をしていて、前の年に退職したばかりでした。それでも、化石のことは全くの素人です。最初のうちは「なにからはじめたらいいんだろう?」と途方に暮れる日々でしたが、松井先生や、滝川の博物館、北海道教育大学札幌校の木村方一先生などに教えてもらい、手探りの研究活動がスタートしたのでした。3. わかってきた
化石作業所の仕事も少しずつ動きだし、ビニールハウスで行っていたクリーニング作業も作業所に移ってきました。このころから、化石の全容も少しずつ明らかになり、クジラの化石の研究を北海道教育大学札幌校の木村方一先生、大型動物を東京大学の犬塚則久先生が担当することになりました。1984年7月21日、犬塚先生が作業所を訪れました。4.デスモスチルスの仲間だ!
机の上には、ところせましとクリーニングされた化石がかんていを待っていました。その中のお皿のような化石を見つけたとき「あっ!これデスモだよ!」と犬塚先生が声をあげました。それまで、第2回の発掘で発見された大型動物は、デスモスチルスらしいことは分かっていたのですが、決め手がなかったのです。お皿のような化石は、じつはデスモスチルス(後にベヘモトプスと判明)の胸の骨だったのです。5. 力をあわせて
最初はどうなるかと思った化石作業所ですが、大学の先生方の指導もありなんとか軌道に乗り始めました。作業もクリーニングにとどまらず、化石の精巧な模型のレプリカ作りや、化石の足りない部分を補い全身の骨をそろえる復元作業も始まりました。町の人たちも応援に駆けつけてくれて、絵描きさんはレプリカの着色、左官屋さんはデスモの彫像を作ってみたりレプリカ作りを工夫してくれたりしました。6.知恵も出しあう
町のおばさんたちもパートで作業員として手伝いに来てくれるようになりました。みんなでいろいろと知恵を出し合い、試行錯誤を繰り返しながら、ついには足寄方式と呼ばれるレプリカ作成法まであみ出していきました。こんな地道な作業と研究が、現在の博物館へつながる大きな足がかりとなったのです。7. 略年表と産出化石一覧
足寄動物化石群研究年表 | 1976年 | 束柱類第1標本発見。北海道大学大学院生木村学さんが地質調査中に、茂螺湾川百合橋 の上流で、束柱類第1標本を発見。北大・十勝団体研究会等による発掘 |
1980年 | 矢吹勝美・勝家さん兄弟が、束柱類第2標本を発見 |
1984年 | 「第1標本」「第2標本」が束柱類と判明(東京大学犬塚則久博士による) |
1982年 | 矢吹さんがクジラ化石を発見(のちにモラワノケトゥス=ヤブキイと命名)。それ以降、クジラ化石は、17体発見されている |
1989年 | 「足寄動物化石群研究の記録」発行(足寄町教育委員会) |
1990年 | アメリカ・カリフォルニア州立大学から、パレオパラドキシア・スタンフォード標本骨格レプリカ(交換) |
1992年 | 第29回万国地質学会議で、研究発表(犬塚則久博士、バーンズ博士・木村方一教授・古澤 仁氏 |
1994年 | クジラ化石の論文掲載。足寄の4標本に新しい学名がつけられた |
1995年 | 束柱類第1標本が足寄町収蔵となる(北大から移管) |
1996年 | 北米古生物学会議で足寄のクジラ化石の講演(澤村 寛ほか) |
1997年 | ニュージーランド・オタゴ大学から、クジラ化石レプリカ(交換) |
足寄動物化石群の構成
海生哺乳類の2目が含まれる。束注目 Desmostylia
アショロア ラティコスタ
Ashoroa laticosta (新属新種) AMP21
ベヘモトプス カツイエイ
Behemotops katsuiei(新種) AMP22
ベヘモトプス Behemotops sp.
鯨目 Cetacea
ヒゲクジラ亜目 Mysticeti
アエティオケトゥス科 Aetiocetdae
アショロケトウス エグチイ
Ashorocetus eguchii(新属新種)AMP3
モラワノケトゥス ヤブキイ
Morawanocetus yabukii(新属新種)AMP1
アエティオケトゥス トミタイ
Aetiocetus tomitai(新種) AMP2
アエティオケトゥス ポリデンタトゥス
Aetiocetus polydentatu(新種) AMP12
モラワノケトゥス
Morawanocetus sp. 種未定 #14
アエティオケトゥス科
Aetiocetidae gen.et sp.indet.
属・種未定#4、#16
ハクジラ亜目 Odontoceti
9標本
(#5、#6、#7、#9、#10、#11、#15、#17、#18)
亜目不明鯨類 2標本(#8、#13、#19)
AMP番号は記載され論文として公表された標本、#番号は未公表の標本です。
未公表の標本は、クリーニング中・研究中のもので、順次公表する予定です。